ともかくも上の前から3,4番目の歯が奥歯にちゃんと寄らないと、次の段階に進めない、ということで上の歯にだけぎちぎち力をかけるワイヤ。
すると、上前歯の2番目と3番目の間に結構な(歯1本分の)隙間が空きます。
明らかにみそっぱなことが普通にしゃべっててもわかるかんじ。
気になるでしょうから、とまたまた熊先生発明の新技を試される。
虫歯治療で使われるシェルとよばれるプラスチックの仮歯をその隙間に貼り付けるのだ。
隙間にあわせた大きさに削って、前から2番目の歯の脇に接着剤をつけてぺとっと貼り付ける。これが、意外と頑丈で熊先生いわく
「はがれたって言った人、いませんから」
裏側に装置をつける人はそもそも外見を気にしてるわけだから、歯1本の隙間が常に見えるくらいなら、隙間の無いほうがマシでしょ。大口あけて笑ったりしなきゃ、歯の色や形の違いに他人は気がついたりしませんって。
とか言われたが、横でシェルを削る作業をしていた助手くんが言う。
「先生、これ手空きのときにいっぱい作っておきましょうよ」
つまり、今までそんなにやったことないってことだろ!
利点は「サ行」をしゃべるときの息漏れがなくなったことだけど、私の歯は子供のころ心臓病治療でのんだ薬のせいでタバコのみの人みたく黄色い(しかも漂白ができない)。シェルは1種類しかないので、ふつーに笑うとドラキュラの牙みたく見えてしまう…
ひょっとして私は、熊先生のいい実験台になっているんだろうか。
ところで、この日熊先生が治療中の雑談でこぼしていた。
「最近なぜだか多くの女性から『親知らずを抜いたら小顔になるんですよね?』ときかれるんですけど、そんなことはないんですよねー。なんで急にみんなそんなこと言い出すようになったんでしょうねえ」
それは多分、安野モヨコ著「美人画法ハイパー」文庫化、のせい。
中で著者が親知らずを抜いたら、いままでぷっとふくれてた左の頬がへこんで小顔になった!と喜んでいるのだ。
よーく読めば、「親知らずが横倒しに埋まってて炎症を起こしてたのを抜いた + 顎関節症の治療をして顎の位置とかみ合わせを正常にしたら顔の骨の位置が変わった」 からなんだけど。
書き方自体は、若い読解力の無い女の子には十分誤解を与えるものだ。
先生いわく「顎関節症の治療なんて対症療法の最たるもので、すりへってなくなちゃった関節のクッションを再生できるわけじゃなく、今感じている不快症状を歯のかみ合わせでごまかしたり、骨の位置をずらして調整したりするだけなんですよ。結果として腫れがひいたり、顔のかたちが変わったりするだけで…」。
女の子たちが騒いでるネタ元、多分その本だよ、と言ったら先生「ちゃんと物事には起きる理由があるもんですね。あーすっきりした」と喜んでた。
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